日記に書き散らかした小ネタ集 鋼版1

   跪いてみなさい


 ああやはりこうなった。
 溜息を吐きたくなった。けれどそれだけでは済まなかったので、机の上にあった手を自分の膝の上に降ろす。
 とりあえず、こののしかかる温もりにできるだけ抵抗しないようにする。
「不感症?」
「誰がですか」
 あまりに失礼なことばかりしか言わないこの男が上司だという事実に目を背けたくなる。確かに、ついて行くと決めたのは自分だ。こういうところもすべて含めて
 すまないな、と人をからかう時の声音で謝るのは止めて欲しい。
 ちっとも謝られていると思えない。
「大佐、勤務中ですよ」
「一時間で終わらせるから」
 そんなセリフを信用してはいけない。これが仕事をサボる一つの手だということは誰に聞かずともよくわかっているのだ。
「終わらせなくていいです。やめてください」
「・・・君本当に不感症じゃ・・・ああ違います違いましたしたすまない私が悪かった」
 素早く取り出し額に照準を合わせた銃さえ、今は役立たずだ。
「いつものが本気だとでも思ってるんですか」
「まさか振りだとでも言わないだろう?」
「そうだとしたらどうするおつもりで?」
「普通に泣きそうになるからやめてくれ」
 リザは机に乗り上がったまま、冷ややかに上司を見つめる。脱がされかけた軍服の上着はまだかろうじて肩にかかっていた。
「勤務中です」
「固いことを言わなくてもいいじゃないか」
「そんな暇があるならばの話です」
「君は押し問答が好きだな」
「私でなく大佐がお好きなんでしょう」
 諦めたように一つ息を吐き、ロイはリザから手を離す。
 すでに奪われてしまっていたバレッタをようやく返してもらえる。
「わかったよお姫様」
「ガラじゃないですよ」
 お姫様。そういう言葉はもっと可愛らしいお嬢さんに使っておやりなさい。
「そうかね。それでは女王さま」
「跪きなさい、とでも言って欲しいんですか?」
 リザは差し伸べられた手をとって机から降りる。
「しびれるね」
 苦笑した。





「ねえエド、あたしがいなくなったら泣いちゃう?」
 さっきまで黙り込んでいたウィンリィが突然そんなことを言うから、俺は。
「はあ?」
 はっきり言ってわけがわからなかった。急に言い出した『死』という事象。何を馬鹿げたことを言ってるんだこいつは。もしも、とか。この世界でそんなことが最もあてにならないということは、こいつが一番よく知っている。
「何よそれ!」
「それはこっちのセリフだ!」
 スパナを握り締めたウィンリィが泣きそうな目でそれを大きく振りかぶる。
「だって・・・」
「だから何でいきなりそんなこと言い出すんだよ」
 ウィンリィは答えない。何も言わない。
 ただただ情緒不安定に泣き続けるばかりだ。
「何なんだよ、一体」
「ねえ」

「あたしがいなくなったら、泣いてくれる?」

 きっと泣くだけじゃすまない。


   目の奥は赤


 真っ赤な目をしているよ、と彼は言った。
 私の目がこんなにも赤く濡れるのは貴方のせいでしょう、と言い返した。
 彼はなんでもなさそうにならば止めればいい、と呟き、一滴だけ涙を流した。
 平然としているように見えて、彼は常に動揺している。自分の思い通りにならない世界に。思い通りにならない私に。思い通りになろうと努力する私に。
 ああ私の目がこれほどまでに赤く濡れてしまうのは。
 返り血を浴びて、涙を流しすぎて真っ赤に染まってしまうのは。
「助けを求めればいい」
 彼は言った。
「助けを?誰に」
 私は答えた。
「私以外の誰かに」
 そんなことはできるはずがない。
 見捨てられるはずもない。
 生きていけるはずもない。
「貴方は鈍感ですね」
 助けなどいらないのだ。
 私はどこまでも貴方についていくと、決めたのだから。


   希求


 求める力が強すぎるために傷つけてしまうのでは、といつも恐れる。
 しかし彼女は思うよりも強く、気高く、そして紛れも無く生きている。
「愛することは必要だと思うかい?」
 愛について。
 個人の価値観によっていくらでも変質する馬鹿げた問いだ。
「愛、ですか」
「そう、愛だよ」
「人によっては必要でしょう」
 それでも彼女は実に正しい答えを返す。曖昧でいて的確な。
「君にとっては?」
 彼女の髪に触れてみたいと思った。だから触れる。
 手のひらに零れるきんいろ。
「では、貴方にとっては?」
 彼女の首筋にくちづけたいと思った。だからくちづける。
 冷えた温もりにキス。
「常に、必要ではないものだよ」
 常に必要なものだ。この髪もこの首筋もこの腕もこの魂も、すべて。
「そうですか」
 失うことはもはや直接死に繋がるのではないかと思わずにいられないほど、密接な愛。
「君にとっては?」
 同じ問いを繰り返すことは滑稽だ。
「いらないときもあります」


 それから先は覚えていない。


   どうしようもなく


 この手に入らないというのならいっそのこと捨ててしまえばいい。

 どうかしましたか、と静かな声が耳に響いて、ロイはすぐさま我に返った。
「いやなんでも」
 発した声が掠れている。自分でも驚くほど思考に集中してしまっていたらしい。
 それならいいですけど。
 きれいだな、と思う。
 きれいなゆびきれいなこえきれいなかみきれいなひと。
「君は私を疑わないな」
 疑う?何故。
 何故疑わなければならないのかと問う彼女は愚かでいい。それはとても心休まる。気づかないということは美しい。その分だけうまく事が進む。
「思っただけだよ」
 安心などできるはずもない。

 この手に入らないのならばいっそ殺してしまえばいいと。

 思ったことがある。
 実際に行動した。
 彼女が寝ている間に首に手をかけた。暗かったので顔色がわからなかった。彼女のきれいなあしはびくりと震え彼女のくちびるが軽く開きそして。
 彼女は薄く笑った。
 間近で見えたそれはひどく滑稽でおそろしいものだったので、すぐさま手を離してしまった。
 彼女の顔に手を近づけるとか細く、けれど確かに呼吸をしていて、目から水が零れた。
 水はいつまでも止まらなかったので、いつまでもいつまでも流れ続けたので、拭うことさえも出来ずにただそこにあった彼女を抱きしめていた。

 この手に入らなければ力づくで手に入れて抱きしめて離さなければいい。

 愛しいと思うひとを、いつまでもそばにいてくれるひとを、永遠に失ったのはこのとき。


   まさにお手上げ


 とりあえず睨み合った。それは彼が彼女を見つめていたからかもしれない。それともそれを見た彼女がとても嫌そうな顔をしたことが原因か。
「抱きしめても?」
「どうぞ、ご自由に」
 手に触る。それから肩。そして、背中。
 彼は彼女を自らの腕の中に抱きこんだ。
「気持ちいい」
「気が済んだら離してくださいね」
「ロマンとかムードとかそういうものは君にないのかね」
「貴方のロマンは見せかけだけの欲望でしょう」
「名言だ」
 言いながら、彼は彼女の耳に唇を寄せる。
「・・・っくすぐった・・・」
 おもしろい。
 調子に乗って続けてしまおう、そう思った瞬間の一言。
「おもしろいとか思ったら撃ちますよ」
 大人しくせざるを得なくなった。
 まさにお手上げ。


   ほっぺた


 ほっぺにちゅう、とやってみた。
「バっ・・・お前何すんだよいきなり!」
 怒られた。けどあんた顔真っ赤だわ。
「したくなったの。ダメ?」
 おねだりってのはこういうときに使うもんよ。
「いやあのダメっつーかむしろイイっつーかあーもうそういう問題じゃなくてだな!」
 そうかそうか照れてるのね。あたしのかわいい錬金術師。
 もう一回、不意打ちほっぺ。
「お前はっ・・・」
 肩をつかまれて、今度はくちびるにちゅう。


   プレゼント


「あら?どうしたのそれ」
 リザが目を向けると、ブラックハヤテ号は骨にかじりついていた。
 彼女には飼い犬にそれを与えた覚えはない。
「フュリー曹長かしら。お礼を言わなくちゃね」
 リザはブラックハヤテ号の頭をなでてやる。
「どうして君は私がやったと思わないのかね」
「こそこそ隠れてないでください大佐」
 ロイが物陰から現れる。どうやら一部始終を見ていたらしい。
「せっかく私が・・・」
 どうやら犯人も彼らしい。
「あら大佐だったんですか。ありがとうございます」
「私が何のために」
「だって大佐犬好きですものね所詮」
「・・・・・・・・・・」
 ぐうの音も出なかった。



   抱き合ったまま。


「ねえエド、いつまでこうしてる気?」
「俺の気が済むまで」
「ちょっとそれあたしの都合完全無視じゃないのよ」
「久しぶりなんだから付き合えよ」
「・・・しょうがない、アルには言わないでおいてあげるわ」
 自分の兄貴がこんなに情けないだなんて。
「秘密」
 知られたら泣いちゃう?
「うん、秘密」
 けど泣かないよね、我慢するから。
 いっそのこと泣いちゃえば、あたしが慰めてあげるのに。


   まずはキス


 そうそれでまずはキス。
「――熱い」
「そうですか?」
「熱があるかもしれないな」
「薬をお持ちしましょうか?」
「いや」
「?」
「君が、冷ましてくれ」
 そうそれでまずはキス。


   おててつないで


 おててつないでかえりましょ。
「・・・アル?何やってんのそんなとこで」
「別になんでもないよ」
「あー、さてはエドとケンカでもしたんでしょ」
「・・・違うよ」
「じゃあ何よ」
「ご飯食べるの嫌なんだ」
 アルも、時々だけどワガママを言う。それは意味がわからないときが多い。
「何それ。あんた食べないじゃない」
「見てるのが嫌なんだよ。だって僕だけ食べれないし」
 アルは当たり前にできることが自分にできないのを嫌がるのだ。
 痛々しいと思わないでもないけれど、でもやっぱりワガママ。
「・・・・・・・・・わかったわ」
「ウィンリィ?」
「あんたは大バカ者よ」
 食べれない姿を見てるこっちがどんな思いなのか、ちっとも知らないくせに。
「帰ろう。今日は特別手ぇつないであげるわ」
 おててつないで帰りましょ。



   Stay


 離れないでくださいよ。
 離さないでくださいよ。
 ここにいてくださいよ。
 できるなら、ここに。
 タバコ嫌ならやめますよ。
(実はちょっと自信ないけど)
 仕事ならがんばります。出世もします。
(そういう問題じゃねえだろうよ)
 
 ああどうしてあなたはいつもそう


   おろかなおとこ


 彼が私を不本意な事柄でからかってきたので、思わず言ってしまった。
「嫌いです」
 だからといっていつも彼がめげるわけでもなく落ち込むわけでもなかったので、今日もいつも通りであろうと思ってしまった。
「私も君が嫌いだよ」
 いつかはそういう日が来るかもしれない、と思ってはいたのでそれほどショックでもなかった。プライベートにおいて、彼から離れることは覚悟していた。
 けれどまさか、こんなに早いなんて。
 けれどまさか、こんなに痛いなんて。
 まさか、これほどまでにこの男を可愛らしいと思ってしまうなんて。
 彼はきっと今私よりも痛い顔をしている。こんな、涙の零れ落ちそうな女よりもよっぽど寂しい目をしている。
「すみません」
 私は泣きませんよ。
「何が?」
 だから泣かないでください。悲しまないで。
「嫌われてたんですね」
 思わずキスしてみたくなった。
 こんなこともあるものだ、不思議に感じながら。
「まさか」
 手が、少し震えた。
 落ち着け、ここで冷静にならなくてどうするの。
「嘘だよ」
 抱きしめたくなった。
 ああ、愚かな男。

   ふじつなおんな


「嫌いです」
 嫌いと言われた。
 きっと彼女は深く考えてもいなければそこまで本気で言ったわけでもない。それなのにどうだ、この痛む胸の内。
 自分でも信じられないほどに彼女が特別だ。
 自分でも計り知れないほどに彼女が大切だ。
 自分で予想する以上に、彼女を傷つけたくなる。
「私も君が嫌いだよ」
 さあ、彼女は私の半分でもいいから痛みを感じてくれるだろうか。
 それだけは、きっと誰にもわからない。
 もし痛いと思っても彼女はけして変わらないのだ。
 もしも私がこのまま彼女から離れていってもけして追いかけて来ないのだ。
「すみません」
 ほら、だからこうやって卑怯に謝るだろう?
「何が?」
「嫌われてたんですね」
 ほら、だからそんな顔をして逃げようとするのだろう?
「まさか」
 乱暴に犯してしまいたい衝動。
「嘘だよ」
 そのときの、安堵したような彼女の表情が、殺してしまいたいほど憎らしかった。
 不実な女め。

 アニメOP(メリッサ)の大佐はあのまま行くとこけるよな


「大佐。そんなに早く歩くと転びますよ」
「中尉、子供じゃないんだからそんなことあるわけ・・・」
 歩きながら後ろを振り向いたロイは、忠告むなしく前方につんのめった。
『あ』
 誰もが大佐が顔面から床にキスをするだろうと確信した。もちろん本人もだ。
「・・・・・・大佐」
 彼の動きは中途半端に止まった。
 ホークアイがロイの首根っこを掴んでいたのだ。一気に首の後ろを引かれて、立たされる。
「だから言ったでしょう」
「・・・すまない」
「あーあー大佐しっかりしてくださいよー」
 バカにしたように(ロイにはそう聞こえた)ハボックが呟く。
「お前ほんっとバカだよなー」
 呆れかえったように(ロイにはそう聞こえた)ヒューズが言った。
「うるさい貴様ら!助けようともしなかった奴らが何を言う!」
「だってなあ、無理だろあの体勢じゃあ」
「こけるのが悪いんでしょうよ」
「・・・・・・っ」
 ロイは顔を真っ赤どころか真っ青にして、今ここでこの二人を吹っ飛ばしてしまいたい衝動を抑える。
 落ち着け、肝心なのは自制心だ。
「・・・中尉、ところでそろそろ離してくれたまえ」
「すみません。掴んでいないとまた転ぶかと思って」
「・・・君もか」
「は?」
「いや、それにしてももっとましな助け方は無かったのかね」
「ないですよ。助けられただけでも奇跡なんですから」
 あの体勢で、斜め後ろから首を掴む。確かに簡単にはできない芸当だ。
「ほら、あの腕を掴むとか」
「このコートすべるんです」
「だからって首・・・」
「一番確実じゃないですか」
「苦しいじゃないか」
「我慢してください」
「・・・・・・っ」
 今度こそ我慢ができない、そう言いたげな態度で、ロイは頭を抱えた。
「ええい!ここには転びそうになった上司を優しく慰めてくれる部下はいないのか!」
「俺でよければ慰めてやろうか〜」
 嬉々としてヒューズが名乗りを上げる。
「男は問題外だ!」
 よくよく考えてみると、ここに女性仕官はホークアイ中尉しかいない。
「・・・・・・・・・」
 あまりのふてぶてしさに周囲は沈黙。
「こういう上司を持つと苦労するなあホークアイ中尉」
「ええまったく」
 あまりにかわいくない子供っぷりに、ホークアイは溜息をつく。
「私が一体何をしたんだ!」

 こけたんですよ。







 







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